DX (デジタルトランスフォーメーション) をどう進めるか?
これが悩みの種となっている経営者の方は多いのではないでしょうか。
DXへの期待が膨らむ一方で、DXを推進してみたけど、途中で断念「POC死 (ポック死)」してしまい、成果が出ないという声が囁かれています。
そもそもDXとはなにか? DXはなぜ失敗するのか? 成果が出るDXとは?
そんな疑問を、今回は株式会社プライムスタイル代表取締役・奥田聡氏とB&Company株式会社代表取締役・太田薫正氏から話を聞きました。
目次
奥田聡氏
- DX (デジタルトランスフォーメーション) の期待
- DX (デジタルトランスフォーメーション) を どう進めるか
太田薫正氏
- 一般企業の実際と現実解
- ベトナムのスタートアップ
パネルディスカッション
そもそもDX (デジタルトランスフォーメーション)とはなんですか?
デジタルトランスフォーメーションは、デジタルテクノロジーを駆使したビジネス変革と定義づけられています。実はBPRのような業務フローの改善などではなく、バリューチェーンをとらえたビジネスモデル全体の最適化することで競争優位を獲得することを目指しています。
これはどういうことかというと例えば下図のように、
書籍購入をする際に従来の場合は、出版社から印刷、そして配送し書店に並ぶことでようやく顧客の手元に渡るという流れを、DX化することによって個人や出版社がオンラインの配信プラットフォームで配信することで顧客は場所や時間の制限なくスムーズに入手できるようになります。
このことから全体的に顧客体験が向上したバリューチェーンとなります。
デジタイゼーションなど似たような言葉がありますが、違いはなんですか?
実は最近デジタルトランスフォーメーションやデジタイゼーションなど様々な似たような言葉が飛び交っています。これらの言葉はデジタルトランスフォーメーションをしていく上でのステップと考えていいでしょう。
具体的には次のようなステップがあります。
デジタイぜーションでは、名刺などの物理データをデジタル化をし、デジタライゼーションでは業務プロセス自体をデジタル化することを指します。
例えばこれまでエクセルやスプレッドシートで手入力していたもの自体をSassなどを導入することで自動化するなどがデジタライゼーションにあたります。
そしてデジタルトランスフォーメーションでは、様々な意見があるものの私としては顧客価値が伴うビジネスモデルの変革を目指すものと考えています。
これを最近では攻めのDX、守りのDXと分けて言われている場合が多いですね。
そもそもなんで企業はデジタルトランスフォーメーションする必要があるんでしょうか?
これには二つの背景があり、まず一つは国際競争力の減少があります。日本企業はそれまで自動車など多くのシェアがありましたが、ここ10年で大きく減少傾向にあります。
そして二つ目は昨今で猛威をふるうコロナウィルスによる環境の変化です。コロナによって世界経済が大きくダメージを受けたことで、三密指数(物理的近接性、屋内作業、他社接触)が高い業種は大きな変革が求められています。
このような背景から、今後企業は付加価値の増加と、環境適応がサービス開発において重要になっていき、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みは増加していくと予想されます。
このような流れの中で会社を成長させるために、新サービス創出を中心とした付加価値の増加、そして環境適応をしていく上で、テクノロジーなどの技術を活用していくデジタイゼーション、デジタライゼーションによって仕組み化、効率化、省力化の二面で発展が見込まれます。
デジタルトランスフォーメーションはむずかしいイメージなのですが、どのような技術を使うのでしょうか?
デジタルトランスフォーメーションという名の通り、デジタルなので情報を扱うわけですが、多くの方が難しそうなイメージを持たれているかと思いますが、デジタルトランスフォーメーションでどのようなテクノロジーを活用するかというと、実は既存のテクノロジーがほとんどで、米国では
- Webテクノロジー
- クラウドサービス
- モバイルインターネット技術
- ビッグデータ
- IoT
など、ディープラーニング(AI)など先端技術を利用するケースの方が少ないです。
そのため、デザイン思考やロボティクスなど新しい技術が出てきていますが、おおむね会社で
DXを推進しようとするなら、テクノロジー的には既存の技術の活用が重要になってくると思います。
DX (デジタルトランスフォーメーション) をどう進めるか
DXが失敗してしまうのはなぜですか?
これはよくある失敗パターンになりますが、大まかに
- DXの方針が明確ではない
- 他部署が非協力的
- 成果が上がらない
このように三つの要因があると考えています。
まず「DXの方針が明確ではない」についてですが、DXをやることは決まっていても
何をするのか具体性がない場合が多いです。そして色々な案件を行ううちに何から始めたらいいのか
わからず時が過ぎていくというものです。
そして「他部署が非協力的」という点ですが、デジタルトランスフォーメーションを進めていく上でDX推進の担当者は社内リソースを活用しようと、依頼をかけますがうまくいかないケースが多いです。
ここは、なぜ行うかということを伝え、粘り強くやっていく必要があります。
そして「成果が上がらない」という点は、新規事業という部分だと当初うまくいくと考えていた仮説はほぼ間違っていることが多いため、顧客に対してどのような価値が良いか仮説→検証のプロセスが大切になってきます。
DXが成功している企業の特徴はなんでしょうか?
DXが成功している会社では、適切な人員がコミットしていることと、DX推進に挑戦するマインドセット醸成や意思決定プロセスの基準が整備されています。
会社として経営トップがDX推進を強くリードし、具体的な推進計画などを用意し、経営会議などで頻繁に推進状況の確認などを行なっている特徴があります。最近ですとCDXOなどDX推進を行う経営メンバーがいいる会社もでてきています。
また最新のデジタル技術を導入している傾向があり、導入に失敗したとしても臆さずに挑戦していけるように会社が促しています。その一方でセキュリティリスクに備えた防御のための仕組み・体制を構築しています。
これらの推進を行う上で、会社の中にDX推進の部署やチームがあること、そしてDXで利益や数字を追い求め過ぎて挑戦を阻害しないような意思決定プロセスや判断基準が必要になってきます。
DXを推進できる人ってどんな人でしょうか?
社内にこんな人がいれば推進できると思います。
- 達成への強い気持ちを持っている
- 責任を持つことが好きである
- 困難な計画の実現のために機会を伺い、あらゆる手段を検討する
- 成功するための資質を得ることができるまたはすでに所有していると信じている
- 革新的であり、計算されたリスクを積極的に取りに行く
ただこれは007のジェームズボンドのような人です(笑)
なのでこのような人材を見つけるのはなかなか大変です。
社内にジェームズボンドがいない場合は、チームの力で解決していきましょう。
準備事項も多いため、DX推進部門を設立し、しっかりと計画を作ることが重要になります。
大企業の場合だとリソースも多いので、スーパーチームを作ることも可能です。
そしてチームがDX推進を集中できる環境も大切です。兼業はおすすめできません。
しっかりとチームがDXを推進できるようにチームが働きやすい環境を整えましょう。
特に攻めのDXを進めていく場合にエース人材をDX推進で専業ができない場合は、攻めのDXの環境が整っていない段階と言えます。
またチームではキーとなる組織から人材をアサインできることも重要です。現場の協力の上にDXは成り立ちます。
具体的にどんなチームが理想ですか?
チームには実現したい未来を語るVisionist (ビジョニスト)に市場側のMarketer(マーケッター)、技術側のSolutionist (ソリューショニスト)が集まるのが理想的です。
実現したい未来を創造することは重要です。そのためにメッセージの発信力やリソース調達能力などを備えたVisionistが必要になります。多くの場合、事業ドメイン内に詳しく正しい課題設定ができるMarketerが兼業する割合が多いです。そしてMarketerが設定した課題を解決できるSolutionistが必要です。Solutionistは設計を考え、データに強い人が理想となります。
ただチームが揃ったとしても、いざ推進を始めると混乱するのは間違いないでしょう。
不確実性が高い中で、何をやっていくんだっけだとかリソースを調達したりと混乱します。
しかし、色々と動いていく中で収束し、コンセプトがクリアになってくため、粘り強く進めていく必要があります。
最後に推進していく上で大切なことを教えてください
推進で大切なことは正しい人にDX推進してもらうことです。
そのためにはあるべき姿を提示し、実績を大切にしながら社内に文化を育むことが何よりも重要といえます。
そのためには正しい人を選定していくことが重要です。
そして全て社内で行うのではなく社外のリソースも積極的に活用していきましょう。近年ではオープンソースイノベーションの流れもあるため、活用していくことで業務スピードが上がります。
そして忘れてはならないのが、なぜDX推進を行うのかという部分です。どの程度の事業のどのくらいの期間でやるのか、あるべき姿をプロジェクト開始前に決定し推進していきましょう。
またDXは最近のバズワードですが、一過性では成し遂げられません。中長期的な視点で取り組まなければなかなか成果は出ないものです。挑戦的に取り組めるように継続的に実施していきましょう。
一般企業の実際と現実解
太田さんが考えるDX (デジタルトランスフォーメーション)とはなんですか?
奥田さんもお話しされていましたが、私もいくつか調べてみました。
調べてみるといくつか定義があり、範囲もあるんですが、大まかには下図のようにデジタル化+何かの変化がDXの定義としてわかりやすいなと思いました。
あともう一つご紹介すると、IDC Japan社の定義が個人的にいいなと思いました。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
これがとても大切で、できるできないはともかくとして考えていくことが大切だと思います。
またDXがどの業界で伸びているのかを把握することも重要です。
上図のように一番伸びているのは製造業で、工場のデジタル化などが進んでいます。このように
各業界で少しずつ具体的に何が行われているか顕著になってきていることから、DXについて考えるときは
業界別で考えてみるのもいいかもしれません。
DXを取り組む上での課題はなんですか?
DXを実行する上でやはり課題が大きいことを感じています。
日経クロステック社のアンケートによると、課題の第一位はDX人材の不足、第二はビジョンなどの不足があります。
このような結果から、やはり実行には少し無理があるのでは?と思います。
ここで日本と米国のIT投資を比べてみると、日本では業務効率化・コスト削減などの投資が多く、米国ではITによる顧客行動・市場の分析が非常に多く、日本と差が大きくなっています。
そのほかにもビジネスモデル変革など、かっこいい攻めの施策が多いようです。このことから日本の企業ではまだ何をしていいかわからないという状態が続いているのかもしれません。
一方で今までお話ししたことは大企業のことだったのですが、中小企業はどうかというと
下図は中小企業の一般的な課題のデータになりますが、売り上げ増しに向けた攻めの課題が多く
効率化などは少ないようです。
私は色々な企業を訪問しましたが、率直なところ20年前とさほど変化は見られず
IT化を進めるのはなかなか難しいということを感じています。
そのようなことを考えた上で現実解としては、あんまり頑張り過ぎず、周りをみて落ち着いて勉強をしていくことが大切だと思います。またあまり自分でゼロからやらず外部サービスやクラウドサービスなどを研究し、デジタル化であったり売り上げを上げるために自社でどのように活用したら良いか考えていくことが現実解だと思います。
先ほどのDXの定義に戻ると、まずはデジタル化を進め効率化をしていくことから始めることがいいと思います。それよりも先のことはあまり無理をして進めず、新しい価値を提供しようとする際はスタートアップなどと連携するのも策かもしれません。
ベトナムのスタートアップ
どうしてベトナムがDXの参考になるのですか?
売り上げを伸ばしていく攻めの施策をする上で、やはり海外に目を向ける必要があります。
特にベトナムでは20年間の間で一人当たりのGDPは6倍になるほど成長しています。まだ日本には数字的には届かないものの、生活の豊かさという意味では日本よりも豊かといえます。
また海外との結びつきが多く、海外からの大型投資が増えてきています。スタートアップでは電子決済の分野では100~300億円の投資がここ5年で増えてきました。
企業数では2000年は4万社だった企業数がここ20年で80万社ほどになっており、ほとんどの企業が創業15年以内と若く、言ってみればほとんどの企業がスタートアップのようなものです。
日本の増加率と比べると、ベトナムの成長がどの程度かがわかりますね。
このような若い会社と連携し、新しい価値を作っていくのも手段かもしれません。
最後に推進していく上で大切なことを教えてください
まとめになりますが、DXは本来成長を目指していくものです。
しかし日本では既存事業の延長、業務効率化がメインとなっています。
このようなケースが大企業で起こっているため、一般企業が独自の戦略、アイディアで新規事業を創出するのは無理があります。
そのため現実解としては、クラウドなどの外部サービスの研究、導入するスキル構築が重要となります。
そして企業の成長や発展を考えるなら、海外展開を大いにありだと思います。
特にベトナムは海外展開の入門となるため、ベトナムのスタートアップと付き合うことで成長のヒントが得られるかもしれません。
パネルディスカッション
大企業でなくても攻めのDXをやりたい場合は?
太田
「まずはやっぱり難しいので、無理にやらなくてもいいと思います。やるのであれば新規事業をつくることとほぼ同義だと思いますので、お客さんの話を聞いてつくっていくことが重要だと思います。また自社のニーズを考えていくことからスタートしていくといいかもしれないですね。」
奥田
「攻めのDXをやるのは守りに比べてだいぶ難しいんですが、まずは会社の中にあるデータが何かを調べてもらうと面白いと思います。思ったよりデータ化できていないということがありますので、まずはデジタイゼーション、デジタライゼーションから取り組むのがいいかと思います。あとは顧客と会う際にデモをお見せすることがあるかと思うのですが、最近だとノーコードツールなどもあるため素早くつくれるようになってきています。なのでこういうところから一歩一歩覚えていくことが大事かと思います。」
ベトナムはコロナの影響を受けなかったのは何故?今後は?
太田
「ベトナムはここ一ヶ月、ニカ月非常に悪化しています。それまでは水際対策を中心に進めていました。誰がどこに行って、誰にあったかなど陽性者の行動を追って、接触した人を全て洗い出すということを一年以上取り組んでいました。そのように全員を捕まえて発症者をゼロにするということをやってきたのですが、なぜそのようなことをやったかというと、一回防衛戦を突破されてしまうと医療体制が脆弱なため、そのあと抑え込むのが厳しくなるためです。それがここ一ヶ月、ニカ月でデルタ株によって崩れてしまい、抑えきれない状況が起きています。そのため他国と同じようにワクチン接種の対処に移行しているものの発展途上国ですので、遅れているというのが原因です。しかし2020年は経済的にダウンすることを抑えたため、今年もダウンしたとしても全体的に見れば、ベトナムはコロナの経済的な影響を抑え込んでいる方だと思います。」
スタートアップと実際に話すのは難しい?何を話すの?
太田
「やっぱり難しいと思います。相手のメリットになることを考えながら話すことになりますね。ただスタートアップが欲しがるものは大企業が長年持っている製造や経験、ネットワークなどの実績だったりします。
そのあたりを上手く結び付けられればwinwinな関係になると思います。」
奥田
「スタートアップの中にも大企業慣れしている企業はあって、エンタープライズSaaSなどがそうですね。なのでそのSaaSプロダクトをみながら対話していくのは生産的だと思います。またスタートアップの方々は情報感度が高い人達が多いため、いい勉強になると思います。一方で協業の場合だと、仕事の進め方などの違いでなかなか難易度が高いため、まずはサーズの活用などから関われればいいかと思います。」
DXのパートナー選びについて
奥田
「先程の話にもつながるのですが、SaaSで解決できるところはSaaSを使ってみることが大事ですね。ただSaaSは制約が多く、他に使っているSaaS製品とのデータの分断がどんどん起きるため、攻めのDXをしていく上でのデータ基盤をどこかでしっかりとパートナーを選んで整えていく必要はあると思います。その時に大切なのが、同じレベルで話ができるパートナーを見つけていくことかと思います。」
語学に自信ないところは?
太田「やはり英語はできるべきだと思います。なので全社的に英語力をつけていくことは経営課題だと思います。一方日本語でも出来ることはあるため日本語での情報収集をしっかりやったり、あとはDeepLなど翻訳サービスを活用していくといいかと思います。」