NEWS RELEASE

月刊誌「PC-Webzine Dec 2021」 に掲載されました。「新規事業創出で蓄積された方法論をDX推進に取り込み競争優位を実現する」

奥田 聡氏はDXコンサルティング、HRサービス、データ&プラットフォーム開発、Webシステム開発などのビジネスを展開するプライムスタイルを起業したほか、コンサルタントとして数多くの企業の業務改善や新規事業支援に携わり、早稲田大学総合研究機構グローバル科学知融合研究所および早稲田大学グローバルエデュケーションセンターなどで研究や教育にも携わっている。こうした経験で蓄積された知見、特に新規事業支援に関するノウハウが企業のDX推進に生かせるという。

DXは自社のためにあらず顧客のため
内向きのDXは競争優位の確立に寄与しない

新規事業を立ち上げる際、それに携わるチームは本体と距離を置いて「出島」を作るのが一般的だという。なぜなら本体の既存の組織やビジネスと切り離さなければ、新しい事業を生み出すのは難しいからだ。 新規事業を立ち上げることを目的として作られた出島的な組織で実践された新しい試みや、得られた知見などが企業のDXの推進に役立つと奥田氏は指摘する。奥田氏は「新規事業推進の部隊を発展的に解消して本体に取り込み、DX推進組織になるケースが増えています」と話す。

新規事業に携わる組織がDXを推進する組織として機能することを説明する前に、DXの定義を確認しておこう。奥田氏は「DXとは競争優位を実現する取り組みです。その源泉は顧客体験の向上にあります」と説明する。 奥田氏が代表を務めるプライムスタイルでは早稲田大学と共同で「DX競争優位実践ラボ」という研究会を運営しており、そこで は企業の DXの事例から成功要因を分析し、体系化、理論化して論文にて社会共有することで、企業におけるDX推進を成功に導く役割を担っている。

奥田氏は「DXに限った話ではありませんが、DXを成功させるには定義を明確化することが第一歩です。繰り返しになりますが、 DXとは顧客起点で競争優位を実現することであり、顧客の立場で新しいビジネスを生み出したり、既存のビジネスを改善したりする活動です。そのためには顧客から認識できる価値(バリュープロポジション)の定義が重要です。決して社内の業務改善ではないのです」と強調する。 話を戻そう。新規事業を立ち上げる際、顧客起点で企画を立てるのは当然のことだ。この顧客を見るというアプローチは営業に携わる人なら今までも行ってきたことだが、いかに理論的に再現性の高い状況で実践するかということに関して、新規事業創出の領域で多くの方法論が蓄積されており、奥田氏は「DXに取り組む人は新規事業の方法論を取り入れるべきです」とアドバイスする。

DXは既存事業にも新しい価値をもたらす
ライバルとの競争はサイバー空間にある

DX を明確に定義することに加えて、変革という言葉の理解も重要だ。DXの「X」を意味するトランスフォームすなわち変革とは、新規事業を作ることなのだろうか。既存事業は否定されるのだろうか。奥田氏は「既存の事業ドメインの顧客と自社の関係性において、どのような価値提供ができているのか、これからどのような価値が提供できるのかを考え、実践することがDXにつながると理解するべきです。例えば牛丼チェーンでは「うまい、安い、 早い」という価値提供において、デジタルを活用して少しでも良くできればDXができていると捉えられます」と説明する。

ただしDXへの取り組みの前提として自社がどのような状況に置かれているのか、既存事業ならば顧客は自社のビジネスに対してどのような要望や不満を持っているのか、新規事業ならば自社の強みや資源を生かしながら顧客の要望に応え、収益化できそうな事業は何なのか、といった情報を把握しなければならない。それにはより多くのデータを収集すること、それらを分析して適切 な解答を得ることが求められる。ここでは事業活動の中で生じるビッグデータとして構造的に処理し、AI などのデジタルの力を生かすことができる。 奥田氏は「既存事業を改善したり、新規事業を展開したりする ために必要なデータの収集や分析を実践するには、ビジネスがサイバー空間に構築されている必要があります。アマゾン・ドット・ コムやウーバーなど、リアルの世界でビジネスをしていても、競争の優位性はサイバー空間で実現されています」と説明する。

「やってみる」というスピード感と
失敗を許容する文化や制度も必要

データを分析して得られた解答から既存事業を改善したり、新規事業を展開したりする際に重要となるのがスピード感だ。スタートアップ企業やIT企業を除き、日本の企業はとかく動きが鈍いことは改めて指摘するまでもないだろう。 奥田氏は「米国では歴史のある大企業であっても機敏に動いています。顧客起点で次々と新しいサービスを考案し、それらを実験して反応や効果を確かめる活動が活発に行われています。 「やってみる」というスピード感で正解を探すわけです。日本人はこうした企業に対して「あの会社は失敗ばかりしている」と言いがちですが、そこに価値があるのです。失敗を許容しなければ新しいことはできません」と指摘する。
DXの推進に人材が重要であることは誰もが理解しているだろう。ではどのような人材が有効なのだろうか。ITの内製化が社内のデジタルリテラシーの向上に必要だが、実践するのは難しいだろう。また新しい発想やひらめきという能力は、教育で育てることは難しい。 奥田氏は「いろいろなケースに携わった経験を持つ人材が有利です。しかし社内だけで育てると範囲が限られてしまい、部分最適になりがちです。社外の人材や能力も取り入れて、多様性のある組織でデジタルリテラシーを高めていく必要があります」と説明する。
最後に奥田氏は「DXは社内だけの取り組みでは実践できません。顧客起点で取り組むにはメーカーならば調達先となる部品メーカーや、顧客との接点となる販売店など、サプライチェーン全体で価値を高めていかなければDXを成功させることはできません」とアドバイスする。

※本原稿の共有は出版社より許可をいただいたうえで実施しています。

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