技術コラム

徹底分析!スマートシティ長野県伊那市の乗合タクシー

本日は私の住んでいる松本市から南へ車で40分、長野県伊那市で運用されている「AI自動配車ドアツードア乗合タクシー」について、どんなAI技術が使われているか勝手に解説してみたいと思います。

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スマートシティへの取り組みが盛んな伊那市!

伊那市は長野県の南部に位置し、中央アルプス、南アルプスに囲まれる、人口約67,000人の谷あいの都市です。諏訪湖を始点とする天竜川が流れていて、春の高遠城址公園の桜がとても有名な風光明媚な場所です。

長野県内の各都市と比べてスマートシティへの取り組みが進んでいて、ドローンによる配送や、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の導入、スマート農業の支援など、地方都市ならではのサービスが導入されています。

さて今回取り上げる乗り合いタクシーですが、こちらもMaaSの一つとして説明できます。対象となる利用者は、伊那市内に居住する以下の人たちです。

・65歳以上の方
・運転免許返納者(65歳未満でもご利用いただけます)
・障害者手帳所持者(65歳未満でもご利用いただけます)
・特定医療費(指定難病)受給者証をお持ちの方(65歳未満でもご利用いただけます)
・持病により運転ができないなど、移動が困難な事情がある方(65歳未満でもご利用いただけます)

ご高齢の方や、自分で運転ができない方向けのサービスですね。

サービスの利用方法は、電話予約やウェブ、ケーブルテレビから予約できるようです。そして迎えに来たタクシーに乗り込んで目的地へ運んでもらう、といった流れになります。

これだけでは普通のタクシー送迎ですが、このサービスは「ドアツードア乗合タクシー」です。一台の車両に複数人の利用者が乗り込みます。当然、各利用者の乗り込む場所、目的地は様々ですので、運転手にとっては、如何に効率よく短時間で全員送迎ができるか、という問題が生じます。利用者が数人だったら簡単に計画は立てることができるかと思いますが、伊那市のサービス対象者は8,000人以上、それぞれが乗り込む場所と目的地が様々であるので、組合せを考えるだけでもウンザリします。

どうやって乗り合いタクシーの自動配車を実現するか?

これらの問題を解決するアプローチとして、「巡回セールスマン問題」という組み合わせ最適の理論があります。数学の話ですね。これは、目的地の集合と目的地間の移動コスト(たとえば距離)が与えられたとき、全ての目的地をちょうど一度ずつ巡り出発地に戻る巡回路のうちで総移動コストが最小のものを求めるというものです。最適なルートを求めるための計算量は、理論上以下の式で表すことができます。

(n-1)! / 2 
nは目的地数、!は階乗(1^nまで全て掛け算)

nが5個ぐらいなら、12通りのルート数で済むのですが、10個になると181,400通り、20個になると総当たりでは計算することも困難なルート数になります。現実の運用では、nの数は利用者の自宅とその目的地が対象となりますので、総当たりで計算するのはとても困難な作業になります。 (スーパーコンピューターで計算に何(万)年もかかる場合も!!)

少し話が大きくなりましたが、現実的には、地図データや交通量データを取得して、出発地から最も近い距離にある、または到達時間が時間が早い目的地を選択し続けていくアルゴリズム(Greedy Insertion等)でルートを作成するという方法を取ると思います。

ここまではAIというよりは負荷のかかる計算ロジックという感じですね。しかし、運用を重ねていくにつれ、利用者ごとにどのような時間帯にどこへ行くかというデータが蓄積されていきます。つまり利用者の行動パターンが学習できますので、回数を重ねるにつれ目的地などのオーダーが予測できる状態になりますね。ここからがAIの出番となりそうです。利用者ごとにどこの場所に行くことが多いかが予測できます。特に地方都市の場合、病院や介護施設、役所、スーパーなど目的地はほぼ限定されます。過去の利用データから利用者ごとの目的地の傾向を予測してルートを編成することは可能と考えます。

技術は単純、しかしサービスとしてきちんと回すアイデアが秀逸!

ここまで「AI自動配車ドアツードア乗合タクシー」のAI自動配車についてあれこれ想像を交えて解説してみました。しかしながら、今回調べて一番工夫が感じられるところが、どのようにして高齢者に利用してもらうか、というところです。私みたいなエンジニアとしては、ユーザーサイド用のWebアプリなど作成してスマホから利用してもらおう、なーんて考えてしまいますが、伊那市のサービスは前述の通りWebの他、電話とケーブルテレビから予約可能とのことです。電話予約の場合はコールセンターを構築する必要があります。そしてケーブルテレビ!長野県はCATVの加入率が約50%でありますが、とくに山間の地域は地上波が入りにくい場所もあり加入している世帯が多いと思います。高齢者にとって、スマホよりも普段使い慣れているリモコンを駆使してタクシーを予約できるなんて、なんてハイテクでしょうか!!これであれば高齢者も利用しやすいと思います。令和2年度は年間利用件数8,253件、1日平均34.1件とのことです。対象者全体に対して実際の利用者は20%なので、今後ますます利用者、件数共に増えていくことが想像できます。だって便利だし。

プライムスタイルでもこんなエキサイティングなお仕事の依頼待ってMaaS!

今回は伊那市のMaasの取り組みをご紹介しました。山間部の一地方都市でこんな先進的な取り組みをしてるなんてとてもアツいですよね!こんなお仕事に巡り合えたらエンジニアとしてはとても幸せだと思う今日この頃です。

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